1. はじめに
仕事においては、正しい心構えや行動が求められます。しかし、そのためにはどのような美徳を持ち、どのような悪を避けるべきかを知ることが重要です。
ここでは、野中根太郎氏訳による「全文完全対照版 論語コンプリート(誠文堂新光社)」を参考に、仕事をする上で尊ぶべき5つの美徳と除くべき4つの悪について解説していきます。
「論語」は、中国の古代哲学者・孔子の言行録であり、孔子が教え子たちとの対話から引き出された言葉や教えが記されています。この書籍は、その後の儒教思想や中国哲学の基盤となった重要な書物の一つとして、中国だけでなく日本や世界中でも広く読まれています。
「全文完全対照版 論語コンプリート(誠文堂新光社)」は、野中根太郎氏による日本語訳が収録された論語の本です。原文と日本語訳が対照形式で掲載されており、より正確な理解に役立ちます。また、渋沢栄一氏の「論語と算盤」という書籍もあり、現代ビジネスに活きる論語の言葉を解説したものとなっています。
2. 仕事をする上で尊ぶべき5つの美徳
「政治にたずさわる者の心得」には、君子(くんし)が持つべき五つの徳目(とくもく)が記されています。これは、政治を担う人々が守るべき心構えとされていますが、同じように、仕事をする上司や先輩、そして部下や後輩にも当てはまるものと言えます。以下、その徳目について考えていきましょう。
(1)上司は部下に恵み深いものであるが持っているものを無駄に浪費してはならない
上司とは、部下に恵み深い存在であるべきです。部下たちは上司から与えられた仕事をこなすために力を尽くしているわけですから、そのことに感謝し、恩を受けたことを忘れずにいることが大切です。しかし、それは上司が持つものを無駄に浪費することを許容するものではありません。上司が持っているものとは、お金や権力、時間などのリソースです。これらを浪費してしまうと、部下たちに対して無駄な仕事を与えたり、大事な仕事を怠ったりすることになってしまいます。上司は、持っているリソースを適切に活用することで、部下たちによりよい仕事を与えることができます。
(2)上司は部下に骨折りの仕事をさせるが恨まれることはない
上司は、部下たちに骨折りの仕事をさせることがあります。これは、部下たちが自分たちの力量を超えた仕事をすることで、スキルアップや成長を促すためです。しかし、このような仕事を与えられると、部下たちはつらさや苦しみを感じることもあるでしょう。それでも、上司が部下たちのためにしていることであることを理解し、恨むことはありません。上司と部下たちがお互いに理解し合える関係を築くことで、よりよい仕事ができるようになるでしょう。
(3)上司にも欲望があるが他人のものを貪り求めはしない
上司も人間であり、欲望を持っています。しかし、上司は他人のものを貪り求めることはありません。上司は、正当な手段で自分の欲望を追求することができます。例えば、自分自身のスキルアップやキャリアアップを目指すことで、より高い報酬や地位を得ることができます。上司は、自分自身の欲望を追求することで、自分自身だけでなく部下たちや会社にも貢献することができます。
(4)上司は泰然としているがおごり高ぶることはない
上司は、泰然としていることが求められます。「泰然(たいぜん)」とは、平静で落ちついていることを表す言葉です。困難な状況やプレッシャーの中でも、落ち着いて冷静な判断をすることができるようにすることが必要です。上司がおごり高ぶってしまうと、自分自身や部下たち、会社にとってマイナスの影響が出てしまいます。上司は、自分自身を律することで、周囲の人々にとって良い影響を与えることができます。
(5)上司には威厳があるが他人に猛々しくはない
上司には威厳が必要です。しかし、威厳を示すために他人に対して猛々しくすることはありません。上司は、自分自身の威厳を保ちつつ、周囲の人々とのコミュニケーションを大切にすることが必要です。上司は、部下たちや他の人々との信頼関係を築くことができるようにすることで、より良いチームワークを発揮することができます。
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3. 仕事をする上で除するべき4つの悪:虐、暴、賊、吝
「虐(ぎゃく)」は、人を苦しめたり、ひどく扱ったりすることを指します。「暴(ぼう)」は、自分勝手な行動や乱暴な態度を取ることを指します。「賊(ぞく)」は、他人のものを不当に奪ったり、悪事を働くことを指します。「吝(りん)」は、けちで、物惜しみをすることを指します。仕事におけるこれらの4つの悪について解説していきます。
(1)部下になすべきことやなすべからざることを教えもしないでミスを責める(虐)
上司は、部下に適切な指示を与えることが求められます。しかし、部下に何も教えずに適切な仕事を期待することはできません。部下が何も知らない状態で仕事を任せ、その後ミスが起きたとしても、それを責めることは虐待と同じです。上司は、部下たちに適切な教育を行い、仕事を遂行するための基礎的な知識やスキルを身につけさせることが必要です。
(2)十分に指導も警告もしないでおきながら成績を見せろという(暴)
上司は、部下たちに対して、十分な指導や警告を行うことが求められます。指示を与えるだけでなく、その指示に従って作業が進んでいるか、適切なやり方で行われているかを確認することが大切です。また、部下たちに問題がある場合は、早期にその問題を指摘し、改善するためのアドバイスを行うことが必要です。上司が十分な指導や警告を行わずに成績を求めることは、暴力行為と同じです。
(3)指示をいい加減にしておきながら期限に間に合わないとして罰する(賊)
上司は、部下たちに適切な指示を与え、作業を進めるためのサポートを行うことが必要です。指示をいい加減にしたり、期限を明確にせずに仕事を任せることは、部下たちにストレスを与えることになります。また、その後に期限に間に合わなかった場合、部下を罰することは賊行為と同じです。上司は、部下たちに明確な指示を与え、期限を設定することで、作業の進捗状況を把握し、必要なサポートを行うことが必要です。
(4)どのみち与えねばならないのに出し惜しみをする(吝)
上司は、部下たちに必要なリソースを提供することが求められます。しかし、リソースを与えないことで、部下たちにストレスを与えることがあります。また、その後にどのみちリソースを提供することがわかっているのに、出し惜しみをすることは、吝嗇行為と同じです。上司は、部下たちが仕事を遂行するために必要なリソースを適切に提供し、仕事を円滑に進めることが必要です。
以上、仕事をする上で避けるべき四つの悪行について説明しました。上司や先輩、部下や後輩にとって、これらの悪行を避けることが、良好な人間関係を築くために重要であることを理解し、実践することが求められます。
4. まとめ
これまで、仕事をする上で尊ぶべき5つの美徳と除くべき4つの悪について紹介してきました。上司は部下に対して恵み深く、骨折りの仕事をさせることができる一方、欲望を貪らず、泰然としておごり高ぶらず、猛々しくならずに威厳を持っていることが重要です。
一方、部下に教えずに責めたり、指導せずに成績を求めたり、いい加減な指示で罰を与えたり、与えるべきものを出し惜しみしたりすることは、仕事をする上で除かなければならない悪です。これらの美徳や悪は、仕事の現場で常に心に留めることが重要です。
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「全文完全対照版 論語コンプリート(誠文堂新光社)」は、野中根太郎氏による論語の完全対照版です。全20篇の論語の原文と、日本語訳、現代語訳、漢字と拼音の対応が掲載されています。また、注釈も充実しており、論語の理解に役立ちます。
仕事に置き換えると、部下を大切にする上司としての美徳や、避けるべき悪について学ぶには、この書籍は非常に有用です。
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