コミュニケーション能力

コミュニケーション能力を鍛えるゲーム!NASAゲームを通じてチームメンバーとの合意形成や協働が必要な理由を考える

皆さまは、物事を判断するときにどれくらい他の方の意見を聞きますか?若い職員の場合は、そもそも経験や情報が少ない場合も多くあるため、他の方の意見を聞いて判断される方も多いと思います。それでは、中堅の職員の場合はどうでしょうか、だんだんと自分自身の意見に自信を持ちプライドも高くなってきているので、意見を聞かなくなってきてはいないでしょうか。更に、ベテランの職員の場合はどうでしょうか、ご自身の話が多くなり主張ばかりで、他の職員の意見すら聞かないなんてことはないでしょうか。ご自身の職場の周りの方を想像してみて下さい。

ここでは、仕事において、チームメンバーとの合意形成(コンセンサスビルディング)のために、さまざまな視点から意見を集約し、議論し、判断を行うこと、すなわちチームワークで協働することがなぜ必要なのか、どのように良い答えを導きだせるのか、「NASAゲーム」を通じて具体的に説明していきたいと思います。

NASAゲームとは

NASAゲームは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙飛行士の採用試験のため、社会心理学者等を集めて開発したと言われています。NASAゲームは、「Survival on the moon」という名称で、日本語では、「月面からの脱出」などと訳されています。NASAゲームをはじめとするコンセンサスゲームは、多くの学校の教育や企業の研修などで活用されています。この「月面からの脱出」は、コンセンサスゲームの中でも元祖にあたるものです。そもそもは、NASAが宇宙という過酷な環境下でミッションを遂行するためには、宇宙飛行士各人の高いスキルと能力が必要であることは言うまでもありません。しかし、それだけでは不十分であり、重要なことの一つがチームワークになります。そのため、本ゲームを通じて、チームワークに必要な能力や資質をテストするためのものでした。

「月面からの脱出」問題の解答や解説は、日本語でまとめられた「あそびDEまなぶ」さんのサイト(コミュニーケーションゲーム)があり、リンクを貼っておきますので、興味のある方は見ていただければと思います。本記事でお伝えすることは、あくまで「仕事においてチームメンバーとの合意形成や協働が必要な理由」であり、そのための具体的な事例や考え方を示すために本問題と取り上げています。

問題

問題の日本語訳も同様にコミュニーケーションゲームサイトから引用させていただきます。

月面からの脱出」
問題
あなたは宇宙船に乗って月面に着陸しようとしている宇宙飛行士です。月面には母船が待っていますが、機械の故障で母船から約300km離れた所に不時着してしまいました。不時着時の衝撃で、宇宙船はほとんど壊れて動きません。しかし、次の15アイテムは壊れずに残っていました。母船に無事たどりつくために、これらのアイテム全てに重要度の高いものから順位をつけなさい。

15のアイテム
① マッチ(箱付き)
② 宇宙食
③ ナイロン製ロープ(15m)
④ パラシュート
⑤ ソーラー発電式携帯用ヒーター
⑥ 45口径ピストル(2丁)
⑦ 粉ミルク(1箱)
⑧ 酸素ボンベ(2本)
⑨ 月面用の星座表
⑩ 自動で膨らむ救命ボート
⑪ 方位磁石
⑫ 水(20リットル)
⑬ 照明弾
⑭ 注射器入り救急箱
⑮ ソーラー発電式FM送受信機

【課題1】
 まずは、それぞれ個人で回答を考えて下さい。(制限時間10分)
【課題2】
 その後、グループで話合い、グループとしての回答を決定してください。(制限時間30分)

2006年には、NASAから「Then and Now – Survival(英語)」という更新版が発表されていて、設定が2025年であったり、アイテムが4つ変更になっていたり、模範解答がNASAの2人の科学者から示されていて解答が一部異なっていたり、その見方が示されていたりと変更が加えられていますが、本記事ではより分かりやすい元祖の方で示します。

課題1と課題2でどちらが正解に近づけるのか

どちらの方がより正解に近づけるのでしょうか。この問題、筆者自身も最近、初めて実際に体験しましたのでその結果をお伝えします。グループで話あってグループで回答を決定した課題2の方が、完璧ではありませんが、課題1よりも圧倒的に良い結果でした。筆者自身が個人で考えた課題1の解答は正解から程遠いひどい結果でした。なぜだと思いますか?

なぜ課題2が正解に近づけるのか

前提条件や基本方針の違い:課題2でグループで話合いを行って気づかされたことは、この問題に取り組むときの前提条件が異なることでした。例えば、母船から約300km離れたところに不時着という状況で、そもそも移動できるのか(母船に知らせて迎えにきてもらう方が現実的?)、移動したら何日かかるのか、重力が小さいことによるメリット・デメリットは何かなどです。こういった観点が、各メンバーで大きく異なっていて、話合いをすることで、前提条件や基本方針を絞り込んでいくことができました。

各アイテムの月面での価値:各アイテムについては前提条件が異なれば、活用できるか否かの答えもことなってきてしまいます。前提条件や基本方針を定めることで、それに対して活用できるのかどうかを検討していくことができました。

筆者自身がとても感心したことは、合意形成や協働の重要性は、そもそも知っていましたが、このようなゲームを通じて、合意形成や協働を行うことの価値を、定量的に見える化を図れることでした。これほど合理的で説得力のあるものはないと感じました。

仕事においてチームメンバーとの合意形成や協働が必要な理由

ここまで読んでいただいた皆さまは、どのように仕事に関わってくるのかお分かりいただけましたでしょうか。少し補足していきたいと思います。

組織の運営方針やプロジェクト、何かを方向づけるような答えを出す場合でも何でも構いません。上司や顧客から指示や依頼を受けた際に、一人で受けて考えて対応する場合と、プロジェクトチームや組織メンバー全員で受けて議論して合意を図りながら進めた場合に、どちらが良い成果を得ることができるでしょうか。一人で対応する場合は、目的に対して前提条件がずれてしまっているかもしれません。もし、それに対して方針を定めて具体的に取り組んでいくとなると、そもそも前提条件が間違っていれば、目的と結果は異なるものになるでしょうか。また、仮に「小さなずれ」であっても、それを段階を踏んで具体化して行動していくと「大きなずれ」となり目的を満たす結果を得ることはできません。もし、それが企業経営における経営資源を集中させる対象と方向づけを行う選択であったとすると、企業の成長や社会への貢献を大きく損なってしまう可能性もあります。

チームメンバーで議論をしながら進めていくことができれば、このような「ずれ」を防ぐことができ、よりよい結果を導くことができます。その過程で、各メンバーは言われたから対応するのではなく、その取り組みに参画してコミットすることができるので、主体性が増して成果は更に良いものになります。チームワークが良くなれば、ギブアンドテイクの関係が良い方向に進んで信頼関係を構築でき、心理的な安全性も確保できるため、生産性が著しく向上します。

上司がトップダウンで物事を進めると、簡単な課題への対応であれば問題ないかもしれませんが、課題が複雑化すればするほど、チームワークが重要となり、それを確固たるものとするために、合意形成と協働が重要になります。

関連記事:職場における心理的安全性と生産性の重要な関係

すぐに行動できること

ここまで、仕事においてチームメンバーとの合意形成や協働が必要な理由について、NASAの「月面からの脱出」問題を通じて、仕事でどのように関係するのかを解説してきました。上司や部下の立場によってできることは違うかもしれませんが、すぐに行動に移すことができることもたくさんあります。

上司の立場から行動できること:課題に対して意思決定をする際は、まず課題を即決してよいもの、合意形成や協働を図り進めた方がよいものを選択し、後者に対してチームメンバーが一同に会して議論して合意形成を図ることが効率的です。また、課題の大きさによって、短時間で合意形成を図るものと、中長期的に合意形成を図っていくことを分けることができるとより良い方向に行くことができます。また、会議や打合せなどの場だけはなく、普段から部下の意見を聞いて考え方を頭の中で整理していくことも重要です。

部下の立場から行動できること:会議や打合せなどの場で積極的に意見をすることが重要です。その際、感情ではなく、メリットとデメリットの両方を見て客観的な視点からより良い方向性を意見できると良いと思います。日本人にはハードルが高いかもしれませんが、意見を主張してなんぼです。主張しないならその場にいる必要もなく、合意形成にコミットすることができません。その時はうまくいかなかったとしても、次の機会で改善し、繰り返していけば必ずよくなります。あとは会議や打合せの場だけではなく、普段から上司や同僚に自ら声かけをして意見を聞いていくことができると良いでしょう。相手の考え方を理解できる上で、ご自身の考え方も理解してもらえるので、会議や打合せの場で主張をするハードルを大きく下げることができます。

まずは意識することが重要な第1歩です。意識ができれば、次は少し行動してみる。それができれば、その次はより積極的に行動する。このように1歩ずつ前に進んでいくことが重要です。気づいたらものすごい進歩をしていると実感できるでしょう。c

関連記事