はじめに
仕事の期限があるときに、皆さんは、先延ばしにして期限間際に完成させる人ですか?それとも、前倒して進めて期限前に完成させる人ですか?人は大きくこの2つのタイプに分かれます。さて、期限の先延ばしと前倒し、仕事で独創性を高めるのはどちらの習慣なのでしょうか?
先延ばしについては、サイト内の別の記事「先延ばしする頭の構造と私たちができる2つのこと」の中でも紹介させてもらいました。それでは、前倒して進めて期限前に完成させる人はどんな良いことがあるのでしょうか。期限の先延ばしと前倒し、独創性を高める方法はどのようなものなのでしょうか。
本記事では、以下の内容について解説していきます。
- 先延ばしをして期限間際に完成させる人のメリット・デメリット
- 前倒して進めて期限前に完成させる人のメリット・デメリット
- 仕事で独創性を高める考え方
- 私たちが取り組めること
本記事は、「ギブアンドテイク:ギバー・マッチャー・テイカー、仕事で成功するタイプと私たちが目指すこと」の中でも取り上げさせていただいた、ペンシルバニア大学ウォートン校教授で組織心理学者のアダム・グラントさんが、世界中の著名人による講演を開催・配信している非営利団体のTED(Technology Entertainment Design)の中での講演「独創的な人の驚くべき習慣(The surprising habits of original thinkers)」を参考にしています。
解説
①先延ばしをして期限間際に完成させる人のメリット・デメリット
先延ばしのメリット
先延ばしをしている間は、取り掛かるまでの時間を確保できています。その間に、他のことに取り組んだり、集中したりすることができます。
仕事で多くのプロジェクトを抱えているような人は、プロジェクトや作業ごとに優先順を決めている人が多いです。優先順位の高い仕事を最優先に取り組み、優先順位の低い仕事を先延ばしにするということが実際にあります。ここで重要なことは、何を先延ばしにするのかということです。
一方で、優先順位が高いことを先延ばしをしてしまうという場合は、他の有益なことに集中するということはあまりないのかもしれません。その場合は、世界的に著名なブロガー「Wait but Why」のティム・アーバンさんが言うように「すぐに得られる喜びを追究するサル(Instant Gratification Money)(サイト内記事)」がするような遊びになってしまうかもしれません。例えば、Googleでネットサーフィンしてしまったり、目的なくYoutube動画を見てしまったり… 仕事の場合でも、優先順位が低いけど、すぐに取り掛かることができたり、これまでに経験があるからしやすいような比較的簡単にできる仕事を選択してしまい、必要以上に時間をかけてしまったりするのかもしれません。
先延ばしのデメリット
これはたくさんありそうです。期限が近づいてきて、皆さんの前で恥をかきそうになったり、追い詰められた状態になって初めて慌てて対応するというケースです。その結果、成果の質は決して良いものではなく、やっつけ仕事になってしまいます。顧客や上司の信頼を失いかねない行為となり、最もひどい場合には、社会や企業に多大な影響を及ぼしてしまったり、信用失墜にもつながってしまいます。
②前倒して進めて期限前に完成させる人のメリット・デメリット
それでは、今度は、前倒しで進めて期限前に成果を作り上げてしまう人を取り上げてみましょう。メリットが多そうに見えますが、実際はどうでしょうか。順番に見ていきましょう。
前倒しのメリット
前倒しのメリット、これは、期限を守り成果をあげることができるということです。何よりこれにつきます。顧客や上司の立場であれば、期限をしっかり守ってくれるので、安心して仕事を依頼することができます。更に、プロジェクトにおいても前倒しで対応しているので、中間成果や作り上げていくプロセスを共有することができるので更なる安心感を与えることができます。無敵のように見えますが、実は大きなデメリットもあります。
前倒しのデメリット
成果の質が下がってしまうことがあります。期限を守ること、しかも前倒して対応すること重視しているので、必要な時間を目いっぱい使ってそのことに100%の力で取り組む訳ではなく、早く仕事を終わらせようということになります。もし、多くのプロジェクトを抱える人であれば、一つ一つを必要最小限ということで、やっつけ仕事のように早く処理してしまいます。
その時に、仕事に他社や他者との違いを作ることができるでしょうか。もう少し検討すれば、より良い成果ができることを、時間を理由として放棄してしまっているということにもなりえます。もちろん、「時間をかけて慎重に検討することが前提で前倒しのスケジュールで取り組んでいるんだ!」というスペシャルな人はこの限りではありません。あくまで一般論での話です。
前倒しは、比較的繰り返しや型式的な仕事を最小限の品質で効率的にこなすという意味では良いことに見えます。しかし、複雑で変化が目まぐるしい社内の中で、独創性を発揮し、顧客や会社・上司の信頼を得るという意味ではデメリットもありそうなので注意が必要です。この点については、筆者の別の以下の記事でも取り上げていますので参考にしていただければと思います。
③仕事で独創性を高める方法
それでは、仕事で独創性を発揮し、成果をあげるためには、どうすればよいのでしょうか。アダム・グラントさんがTEDの中で提示した、前倒し・先延ばしの人の特性(Pre-crastinators & Procrastinator)と生産性(Creativity)の関係を表した図1がとても参考になります。独創性(Originals)は前倒しと先延ばしの中間地点にあります。
独創性(Originals)は前倒しと先延ばしの中間で成果をあげると何が良いのでしょうか。先延ばしをして期限間際に急いで対応しても、前倒しをしてやっつけ仕事のように対応しても成果の品質は低くなってしまいます。中間となる上で重要なことは、仕事やプロジェクトにおいて、早期の段階で最終成果として必要なアウトプットや成果を作るためのアプローチを設定することです。その上で、時間をかけて頭の中や普段の仕事の中で少しずつ時間をかけて、アイデアを醸成(Cultivate)していくことが大切です。そうしていく中で、アウトプットやアプローチをよりニーズに合ったものにアジャストしていき、期限に余裕をもって一気に完成させるといったイメージです。取り組みに早期に着手し、その上で時間をかけてアイデアを醸成し、一気に完成させる、これは奥がとても深く、筆者自身も実体験としてとても共感しています。
④私たちが取り組めること
今までの解説を基に、それでは私たちは何をどのように取り組むことができるのでしょうか。筆者自身も同じ方法を取って仕事やプロジェクトに従事しています。これらの手順を、複数の仕事やプロジェクトに対して、時間差をつけながら並列に進めていくということを意識しています。以下に段階を示します。また、ひとつの仕事やプロジェクトを進める場合と、複数の仕事やプロジェクトを進める場合の2つの概念イメージを図2に整理しました。
- 仕事に早い段階で着手する
- 時間をかけてアイデアを醸成
- アイデアがある程度醸成できたら一気に成果を作り上げる
- 最終的なアウトプットに対して見直し、微修正を加えて完成させる
①仕事に早い段階で着手する
仕事やプロジェクトの立ち上がりでは早期の段階で着手し、全体的な取り組みの目標や方針、アウトプット、アウトプットを作成するアプローチなどを設定します。
②時間をかけてアイデアを醸成
その後は、設定した内容を具体的に進める上での、工程計画、人的資源・物・コストなどの配分、具体的な検討方法などを検討し、アウトプットを作成するためのアイデアを醸成していきます。アプローチが間違っていないかどうか、目標に向かっているのかを確認しながら進めていきます。
複数の仕事やプロジェクトがある場合には、着手のタイミングをずらして並行して取り組みを進められるように工程の配分をしていきます。
③アイデアがある程度醸成できたら一気に成果を作り上げる
言葉の通り、アイデアが醸成されたら、一気に成果を作り上げていきます。工程や具体的な検討方法がチームメンバーの中でしっかりと共有できていれば、迷うことなく進めることができます。
④最終的なアウトプットに対して見直し、微修正を加えて完成させる
最後に、成果を作り上げていく過程で、気になる点や問題点があれば、その過程の中で微修正をしながら完成させていきます。すでに②の中でアイデアを醸成しているので、もし修正が必要となっても大きな方針が変わることはありません。ブレはかなり小さく抑えられて効率的に物事を進めていくことができます。
まとめ
ここまで、仕事やプロジェクトで期限があるときに、期限の先延ばしと前倒し、仕事で独創性を高めるのはどちらの習慣なのかについて、メリット・デメリットの両面から見てきました。そして、仕事で独創性を高める考え方、そして私たちが取り組める具体的な方法について解説してきました。
期限の先延ばしと前倒しには、両方にメリットとデメリットがあります。そして、仕事で独創性を高めるためには、先延ばしと前倒しの中間地点を目指すことが重要です。
私たちが取り組めることとしては、①仕事に早い段階で着手する、②時間をかけてアイデアを醸成する、③アイデアがある程度醸成できたら一気に成果を作り上げる、④最終的なアウトプットに対して見直し、微修正を加えて完成させるという4つの段階で進めていくことが重要であることが分かりました。